「年収の壁」に時限的な緩和措置

2023年9月、パートで働く際の「足かせ」となっていた年収の壁に対し、

「人手不足」と「所得拡大」の名のもとに一定の緩和措置が捉えることが発表されました。

今回のコラムでは、パート勤務中の派遣スタッフのみならず、直接雇用のパートスタッフにも関係する、「年収の壁の緩和措置」についてザックリ説明いたします。

1.緩和措置の対象

まずはそもそも論から。

今回、緩和措置の対象となる「壁」は「106万」と「130万円」の2つ。

要するに、社会保険の加入が義務付けられる年収が対象。

本当はもっと稼ぎたいのに、社会保険に加入しなければならないという理由で勤務を制限している方や、社会保険に入ったせいで手取り収入が減ってしまう人たちに対する救済措置と考えるとわかりやすくなります。

対して、社会保険の加入云々が問題とならない「103万円の壁」内で勤務している方への措置はありません。

あくまで「106万の壁」と「130万の壁」が問題になる方への措置であることをまずは押さえておきましょう。

2.緩和措置で「何が?」、「どうなる?」

この緩和措置の内容を「壁」別にみていきましょう。

(1)106万円の壁:一人当たり最大50万円の助成金が支給

年収106万円を超えることで、社会保険の加入を余儀なくされた労働者と企業に対しては、企業を対象にした助成金制度が創設されます。

2023年9月26日時点で発表されている内容は、

【助成金の支給条件】
労働者の手取り収入が減らないよう労働時間の延長や賃上げに取り組む企業に1人当たり最大50万円を助成する。

というもの。

労働者の勤務時間を「何時間延長すれば」、また「いくら賃上げすれば」といった具体的な指標は現時点ではまだ発表されていません。

この助成内容には「1人あたま50万とはかなり太っ腹な政策だなぁ」という印象を受けましたが、それと同時に、これがきちんと労働者に分配されるのか心配になりました。

また、助成金受給の条件である、①延長時間 ②賃上げ額・率に、③助成金、④人件費を加えて損益分岐点を見出していくことの労力と難易度を考えるとこちらも心配です。

されに、そもそもは労働者が主役であるはずのこの緩和措置ですが、「助成金」という名のもとに企業がその私服を増やすこともできなくはないという点も・・・心配です。

(2)130万円の壁:連続2年までの社保加入の猶予措置

次に年収130万円を超えることで、社会保険の加入を余儀なくされる労働者と企業に対しては、連続2年間まで社会保険の加入に「まった」をかけられる猶予措置が設けられます。

2023年9月26日時点で発表されている内容は、

【猶予措置の内容と条件】
一時的な増収で年収が130万円を超えても健康保険組合など保険者の判断で連続2年までは扶養にとどまれるようにする。

一時的な増収であることを証明するためのルールは現在検討中。但し、適用しやすいよう「簡素な手続き」が前提とされている。

年収制限を気にしながら働く方にとっては「うっかり壁越え」の救済になってくれる良い措置であるとは思います。
一方で、一時的な増収であることを証明するための方法がどのようなものになるのか?心配です。またジャッジをするのが「健康保険組合」とのこと。
数年までの組織変更で、社会保険証の発行スピードがかなり遅くなっている点などを見ると、ジャッジに要するスピード感も正直不安です。

106万の壁、130万の壁、それぞれに対する措置は10月にはスタートするとのことですので、いち早い詳報を待ちましょう。

3.あくまで一時的な措置

今回の緩和措置は適用条件等がハッキリはしていないものの、年収制限という足かせをなくし、労働増・収入増を実現するという点では素晴らしい措置であると言えます。

しかし、この緩和措置はあくまで一時的なものであり、2025年に予定される大規模な年金制度改革までのつなぎであるということをお忘れなく。

要するにこの措置は「本案」でなく恐らく2025年に廃止か変更がなされるため、今回の措置を雇用や勤務シフトの根幹にはおかない方が良いという事です。

 

以上となります。
「壁」に対する特例措置は現段階では詳細は不明ですが当社のスタッフさんへの適用はもちろん、お客様先へも案内しやすいよう、使いやすいものになってくれることを願うばかりです。

今後は、2025年に改正が予定される年金制度。「かつてないインパクト」が見込まれるこのかいせいにおいては、もはや壁すらなくなるのはないか?と意見を述べる専門家もいるくらいです。

【2025年の年金改革とは?】
2024年に実施される財務収支の検証を経て、2025年に国民年金法、厚生年金保険法などの法律改正が予定されている。年金の受給開始可能年齢他の整合性の点から、関連法律の改正も併せて実施されることが多い。

今後は壁への優遇措置はもちろんのこと、この「2025年の年金改革」の念頭においた準備が重要。

もしも壁が無くなったら・・・

そんな考えでプランを考えておくのも、十分アリかと考えます。

 

ABOUTこの記事をかいた人

1974年7月3日生まれ、中央大学文学部英米文学科卒。千葉県内でパート専門の人材派遣を展開するワークパワー株式会社の営業兼、代表取締役。一児(娘)の父。趣味は旧車バイク乗り・いじり、ドラム、食べ歩き。