賃上げの作法

大手企業のベースアップにより世に漂う「賃上げムード」(ブームと呼んでいいかもしれません)

私たち中小企業も決して楽ではない台所事情の中でベースアップが迫られています。

そこで今回のコラムでは賃上げを行う際の方法や気を付けるべきポイントを、「賃上げの作法」と題して事例を織り交ぜながらお話させていただきます。

1.ブームに乗った賃上げもあり

今年に入り、賃上げを実行した取引先の社長さん数人にお話を伺いました。

曰く、

「何となく上げなければ」という風潮だから・・・上げた!

周りが上げてるいるので仕方なく・・・上げた!

との事で、賃上げについて皆様思うところはありつつも実行しているところが多い様子。

大企業の「賃上げで消費を云々~」という様な意見を聞くことはありませんでしたが、生っぽくて私は好きです。またなんだかんだ言いながらも結局は賃上げを断行している点も素敵です。

現代社会には抗いがたい賃上げブームに沸いていることは否めません。

しかしいかにブームでも、そもそも本当に業績が苦しければ賃上げは不可能ですし、決して楽ではない懐事情の中(失礼!)それでも賃上げを実行したということは従業員さんへの想いや愛情の何よりの証です。

まだまだ中小企業の多くは賃上げに対して決して積極的とは言えませんが、「せっかくの機会だから」といつかやるはずだった賃上げをこの機会に「えいっ!」と断行してみるのも一つの手だと感じました。

今回のブームが無ければきっと賃上げをしないままという企業さんも多かった様な気がします。

2.賃上げの考え方

定期昇給を常に行い、明確な指標と計画を元にした賃上げを行っている・・・という以外の場合、

つまりは、ある意味でブームにのって昇給を実行した場合、

「せっかく賃金を上げるのだから~」

と元を取ろうとするような考えを持つことは危険です。

今回の賃上げは「遅れてきた」ものであり、過去に行うべきこと今やっているだけの事と割り切って考えましょう。ニュアンスとしては、

「賃上げをしたからもっと頑張ってくれ」

ではなく、

「今まで頑張ってくれたから賃上げしたよ」

という感じでしょうか?

長年賃上げがなされていない企業の場合、賃上げに必要以上の意味と期待を込めてしまいがちですが、これはいけません。

平素から昇給がない企業の場合、最悪社員さんから

「ブームに乗ってようやく賃上げしてだけなのにドヤるなよなぁ~」

と思われてしまいます。

事実、賃上げについての考え方がズレてしまっている企業では、

「期待が重たいので、賃上げを辞退したい」

「期待値が賃金と見合わない」

と賃上げがなんと退職にまでつながってしまうケースが発生しています。

気を付けたいところです。

3.賃上げの理由を伝える

賃上げについて正しい考え方を持つことと同じくらい重要なことは、

「理由をしっかり伝え、相手の納得感を与えること」です。

お金を得るために働く以上、「賃上=善、よいこと」ではあるのですが、

何の理由も言われず、「給料上げておいたから」と言われても・・・ですよね?

さらに、相手が感性のするどい「女性」の場合にはそこに納得感も必要。

①なぜ賃上げするのか?

②どうしてその額なのか?

③今後何を期待しているか?

の3点を明確にして相手に伝え、

「ああ、なるほど!よくわかりました。ありがとうございます!」

と納得感を持たせるよう努めてください。

大切なところですので少し掘り下げます。

【賃上げ時に伝えるべき内容】

(1)なぜ賃上げするのか?

・ブームに乗ったことは伝えて良い。

→ただし賃上げの意志があったことは言い添える。

・個人の評価ポイントを明確にする

→〇〇ができている、××が素晴らしい、お客様からの感謝の声が多い等、個別具体的な事例を出すのが望ましい。

(2)どうしてその額なのか?

・給与規定がある場合にはそれを元に説明。

→昇給額が高い場合にもドヤらない。昇給額がプレッシャーにならないようフォローするつもりで慎重に。

・給与規定がない場合にも金額の根拠を明かす
→たとえ「同業他社がこの位だから」という理由でも、社長の「なんとなく」よりは調査をしているだけ全然マシ。

(3)今後何を期待しているか?

・会社としての方向性や、部署、担当職種に向けた期待、目標をなどを示す。

→期待が本人に向かい重たくならないよう注意。プレッシャーへの配慮があれば個人への期待を伝えても良い。

上記の様に、賃上げを伝える際には、その理由と評価のポイントを明確にして、賃上げと引き換えに何かをさせるという匂いがプンプンしないよう十分配慮しましょう。

4.真の従業員満足を目指す

労働の根本的な目的は言うまでもなくサラリー(収入)ですが、人は意識する、しないに関わらず労働にやりがい、いきがい、自己実現、存在証明といった「感覚的なもの」を求めています。

かのガンジーは自伝の映画の中で「幸せは労働と働く誇りにある」と言っていますが、これは「働く」という行為を本質的に表した名言だと私は思います。

賃上げ前の段階で「感覚的なもの」が満たされていれば、賃上げは成功です。

一方で「感覚的なもの」が満たされていなければ、賃上げをしても満足度はいいとこ半分。さらに言えば、会社への帰属意識が低い中での賃上げは、

「不満を金で解決しようとしている」

という誤解すら生んでしまい、結果退職に繋がってしまいます。

残念ながら現在、給料が高い会社はザラにありますから「ここじゃなくても・・・」となってしまうわけです。

今回の賃上げブームによって望まずに賃上げをやむなくされた場合でもこれは好機です。

従業員の心情を理解し物心両面の満足を実現していくことは、身を切るような賃上げにおける最上級の成果と言えるのではないでしょうか。

以上です。

今回は賃上げにおいて押さえておきたいポイントをご紹介しました。

とにかくブームに乗って初めて見る。

しっかりと理由を伝える。

そして、物心両面の満足を従業員に与える。

単に給与を上げる以上に、気を回さなければならないことが沢山ありますが、しっかりとポイントを抑え正しく賃上げができれば、単に給与を上げた以上の成果を得ることができます。

お作法を守り、幸せな賃上げ実行していきましょう!

私も頑張ります!!

ABOUTこの記事をかいた人

1974年7月3日生まれ、中央大学文学部英米文学科卒。千葉県内でパート専門の人材派遣を展開するワークパワー株式会社の営業兼、代表取締役。一児(娘)の父。趣味は旧車バイク乗り・いじり、ドラム、食べ歩き。