派遣スタッフの引き抜きは厳禁

自社に来てもらっている派遣スタッフを社員などの直接雇用にしたいと思ったらどうしたらよいのでしょうか?

正解は「派遣会社にその意思を伝え、派遣会社が取り決める手続き従い話を進めること」
しかしそれが正解だとわかっていても、なんだかんだと理由をつけて派遣会社に内緒でスタッフの引き抜きを行う企業が残念ながら増えています。

そこで今回のコラムは「派遣スタッフの引き抜きは厳禁」と題して、派遣スタッフを自社の従業員にするための正しい方法と、引き抜きをしても良いかのように勘違いしてしまう原因などについてお話させていただきます。

結論から先に申し上げれば、「引き抜きは厳禁」です。問題になれば、契約によっては派遣会社から「違約金」の請求を受けたり、民法に則り処分されたり、そして何より大切なスタッフを失うことになりますのでくれぐれもご注意ください。

1.まずは取り決めを確認

派遣会社に確認

まずは派遣スタッフを直接雇用することを希望した際に、どのような手続きが必要なのかを、締結した派遣の契約書を元に派遣会社に確認することです。

派遣契約書における直接雇用の取り決めは、ほとんどの場合、
「派遣期間中に直接雇用の誘いをかけてはいけない」と記載されているはずです。

そんなこと派遣会社に聞いたら「派遣から直接雇用にするなら紹介予定派遣になるので、紹介料金を払ってください」と言われてしまうじゃないか!

という声が聞こえてきそうですが、これが正しいやり方であり契約書にそのように締結してあればこれ以外に方法はありません。

紹介予定派遣への切り替えがデフォルト

派遣会社により契約書の仔細は異なりますが、契約書には派遣会社にとって大切な経営資源である派遣スタッフを無断で派遣先企業に持っていかれることを防止するため、派遣から直接雇用に切り替える時には契約を「派遣」から「紹介予定派遣」に変更し対応する旨が書かれているはずです。

仮に契約書に「紹介予定派遣」という文言がなく「派遣元、派遣先双方協議の上で~」といった文言になっている場合においても、派遣会社側の要求は「直接雇用時には紹介予定派遣」の一点に尽きます。

繰り返しになりますが、派遣会社にとって経営資源である派遣スタッフを「無料」で派遣先に渡すことを希望する派遣会社などないことは普通に考えればご理解いただけると思います。

契約を破ったらどうなる?

直接雇用について契約書に取り決めがあるにも関わらず、それを無視して直接雇用にした場合には当然派遣会社から違約金を請求されます。

またこれが怖いところなのですが、その引き抜きが悪質で社会的妥当性がないと判断された場合には、民法第709条に則り処分を受ける可能性も十分にありますのでくれぐれもご注意ください。

民法第709条とは?
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

とにかく大前提は派遣会社との間の取り決めと確認です。ネットには「この方法を使えば引き抜きが可能」とか「こういう解釈をすれば引き抜きではない」いった論調の記事を散見しますが曲解であり、道義的にもあり得ないと私は考えます。

何はなくとも、直接雇用は事前の契約則り派遣会社と真摯に話を進めていくことが前提であることをまずは理解しましょう。

2.直接雇用自体は違法ではない

勘違いしてはいけないのは派遣スタッフを直接雇用にするということ自体に違法性はありません。それどころか労働者保護の観点からは推奨されているという点です。

労働者派遣法33条

このことは労働者派遣法の33条に定義されています。

労働者派遣法33条

≪派遣労働者に係る雇用制限の禁止≫
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

平たく言えば、
派遣会社は雇用契約が終了した派遣スタッフを派遣先が雇うことを邪魔してはいけない
ということですです。

雇用契約が切れた時点で、派遣会社は派遣スタッフに対し何ら拘束力を持ちません。また派遣先も締結していた派遣契約に縛られることはなくなりますので、派遣スタッフを直接雇用することそれ自体には制限はないというわけです。

具体例で説明すると、

・派遣スタッフAさんを社員に欲しいと思っている。
・Aさんの契約は来月末までで終了。
・契約が終了した時点でAさんに声をかけ自社の社員にならないかと誘った。

上記のような方法で派遣社員を直接雇用にすることは合法であり、違法性は一切ありません。派遣会社にしてみれば自社のスタッフを派遣先企業に「取られた」ような形になりますが、既に派遣スタッフとの雇用契約は終了しているので文句を言う権利などありませんし、「妨げてはならない」とまで言われていますから。

繰り返しますが、上記の流れは合法です。33条は労働者保護の目的もあり、雇用契約が終了した時点で派遣先が派遣スタッフに直接雇用を申し入れることはもし派遣スタッフの次の仕事が決まっていなければ雇用の安定にもつながります。

3.問題は「派遣期間中」に誘うこと

さてここからが本題。前述の労働者派遣法33条と派遣会社との契約を比較してみましょう。

≪派遣会社との契約内容≫
派遣先は、派遣期間中に直接雇用の誘いをかけてはいけない

≪労働者派遣法33条≫
派遣会社は、雇用契約が終了した派遣スタッフの就業を妨げてはいけない
※派遣スタッフが派遣先の直接雇用となることを妨げてはいけない

ポイントは赤字の「直接雇用の誘いをかけてはいけない」という点です。

派遣先は派遣期間が終わっていれば派遣スタッフを直接雇用しても問題ありません。しかし、大切なところは、派遣期間中にその誘いをかけてはいけないということです。

さらに具体例で説明します。

・派遣スタッフAさんを社員に欲しいと思っている。
・Aさんの契約は来月末までで終了する。
・ならばAさんを誘ってOKの返事がもらえたら契約を更新せずに派遣を終了させ、Aさんを直接雇用にできる。

これはNGということですね。

Aさんに直接雇用の打診をしている時点では契約は履行中です。ということは派遣会社との契約にある、

派遣期間中に直接雇用の誘いをかけてはいけない

というルールを違反しているということになります。

極論、派遣の契約が終了する翌日までAさんには直接雇用の話を一切しなかったのならばセーフです。

しかし「そんなことをしていたらAさんが別仕事に行ってしまう。早く声をかけておかなければ・・・」と契約終了日より前に動くことがほとんどで、契約の終了日を待つまで誘いをかけないなんてことはほぼなく期間中に「うちに来ない?」と持ち掛けてしまう。

こうなったら完全にアウトです。

繰り返します。
契約履行期間内、つまり派遣期間内には派遣スタッフに直接雇用の誘いをかけていけません。

雇うのはセーフ。誘うのがアウトなんです。

労働者派遣法33条と派遣会社との契約がごっちゃになり、自社で雇用するのが派遣契約終業後であればいつ誘ってもセーフと解釈されてしまうことが多いんでこの点、お間違いのないようご注意ください。

ならば、どうするか?
Aさんを「自社に欲しい」という意志を派遣会社に伝え、正当な手続きを取るだけでOKです。

これならルールを逸脱しない形で、派遣期間中に堂々とAさんを自社に誘うことができます。難しいことは何もなし。派遣会社をすっ飛ばしてAさんに話を持ち掛けなければよいだけのことなのです。

4.引き抜きで失うもの

非合法な方法で派遣社員を自社の従業員することを「引き抜き」と表現します。

引き抜きで失うものはたくさんあります。一つは題が訴訟などにまで発展した場合の会社の信用・信頼の失墜。しかし、ある意味でそれよりも大切なものを失う恐れがあります。

雇用しようとしていた人材

非合法な方法で引き抜きを行おうとする会社から人は離れていきます。

これは当社で起きた実話なのですが、引き抜きにあった当社のスタッフさん(Aさん)は結局誘いを受けた会社にはいかず当社に戻ってきました。理由は、

ルールを守れない会社でなど働きたくない
というもの。

派遣期間中に派遣先から「社員にならない?」との誘いを受けたAさん。ただしこれが当社に内緒で行われているということを知り「そんな会社は信用できない」、平たく言えば派遣先に愛想をつかしたというわけです。

引き抜かれる立場の派遣スタッフも、派遣から正社員になる上で派遣先と派遣会社がどのようなやり取りをしているか、するべきかというくらいの知識は持ち合わせています。

結果派遣先は社員として戦力を発揮してくれる優秀な人材を失ってしまいました。
彼女の能力や人柄を考えれば、紹介予定派遣にかかる費用など安いものだと思うのですが・・・実にもったいない!

派遣会社からのサービス提供

上記の出来事の後、同じ派遣先から新たに派遣スタッフのオーダーを頂いたのですが、どのみち引き抜かれることはわかっていますから丁重にお断りさせていただきました。

そして3年後、再度この会社からオーダーをいただいたのですがその時には「もうどの派遣会社も相手にしてくれなくなってしまった」と同社の社長。聞けば取引する派遣会社を変えながら引き抜きを繰り返していたとのこと。そりゃ愛想もつかされますよね。

自社に欲しい人材にかかる経費を惜しんだばかりにあまりに大きいものを失ってしまったという事例を紹介しましたが、引き抜きにまつわるこのようなお話は本当に枚挙にいとまがありません。

5.最後に

人出不足が加速し、人一人の価値が爆上がりする昨今、自社に必要な「これは!」と思う人材がいたら絶対に逃してはいけません。

派遣スタッフを自社雇用の社員にするためには、派遣会社に支払う「紹介料金」という費用が発生します。年収の20~35%に相当する紹介料金は決して安いとはいませんが、それでも見初めた人材がこれから生み出してくれる会社の利益を比べれば紹介料金等安いものです!

また、正当な手続きで「払うものを払って」直接雇用にするという実績ができれば、派遣会社もその会社への人材の派遣に今後ますます力を入れるはずです。良いお客様には全力で取り組みたいですからね。(少なくとも当社はそうです!)

今回は「派遣スタッフの引き抜きは厳禁」というテーマでお話をさせていただきました。

派遣スタッフを自社に迎え入れる正しい方法と間違いやすいポイントについて理解が深まれば幸甚です。

ABOUTこの記事をかいた人

1974年7月3日生まれ、中央大学文学部英米文学科卒。千葉県内でパート専門の人材派遣を展開するワークパワー株式会社の営業兼、代表取締役。一児(娘)の父。趣味は旧車バイク乗り・いじり、ドラム、食べ歩き。