派遣はなぜ高い?②派遣会社の取り分編

派遣の利用を躊躇させる、人材派遣サービスの料金について。

「派遣はなぜ高い?その①」では派遣料金の内訳の7割以上を占める派遣スタッフの時給について解説致しましたが今回はその続編。

派遣料金のもう一つの構成要素である「派遣会社の取り分」についてお話し致します。

実はこのうち半分も利益にならないケースも多々あるほか、事によっては赤字になることも珍しくはありません。

1.派遣会社の取り分?料金の更なる内訳

前回のコラムでも利用したこの図。

上図では派遣料金の3割程度を「②派遣会社の取り分」と定義しておりますが、これは正確ではありません。

この「取り分」の中には以下の福利厚生費も含まれます。

 【福利厚生費の一例】
・社会保険料(社保・年金)
・労働保険料(雇用・労災)
・有給休暇
・健康診断費用

例えば、派遣料金が1,700円/=派遣スタッフの時給は1,300円と定義した場合、差額の400円が派遣会社の取り分となりますが、この差分で、上記の福利厚生費を賄うことになります。

これを1日8時間、月20日勤務のフルタイム勤務の派遣スタッフを例にして月で資産すると・・

・派遣料金=1,700円×8時間×20日

 =272,000円

・給  与=1,300円×8時間×20日

 =208,000円

≪差額=64,000円≫

お客様から頂く派遣料金から実際に勤務するスタッフの給料を差し引いた額が、64,000円。

派遣会社としてみれば、この差額がそのまま利益になればよいのですが、そういうわけにはいきません。雇用主として「人を雇う」上で発生する費用がここから控除されていきます。

・社会保険/厚生年金(等級は17/14)

 =9,810円+18,300円=28,110円

・労働保険料(概算)

 =208,000円×3/1,000=6,240円

≪差額=29,650円≫

各種保険の対応により「取り分」は半分以上なくなり、差分利益は30,000円以下に。人を雇うのに最低限必要な経費を差し引くだけで利益は半額以下となります。

派遣会社が負うべき費用はこれが最低限で、まだまだ存在します。

2.充実した福利厚生でさらに必要が発生

各種保険に加え、雇用期間により発生する新たな経費や状況により増減する様々な経費が存在します。

【その他の経費】

・健康診断:年に一回、10,000円前後。
・交通費 :多くは派遣会社が自社で支給。
・振込料 :給与振込費。他銀で約500円。
・有給休暇:半年で10日発生。
・産業医 :50名以上で(5万/月:概算)

※上記の金額はあくまで一例です。

健康診断や有給休暇等の福利厚生は、スタッフが安定して長期で務める場合には必須の対応に。また、雇用する人員が50名を超えた場合には「産業医の選定」と定期巡回等の依頼が必要となります。

このように派遣スタッフの勤務が長期化するほどに、また派遣スタッフが増えるほどに経費が増えるという宿命を派遣会社は負っています。

余談ですが、例えば、とある派遣スタッフが有給を沢山利用した月に健康診断を受信した月等は単体で見れば確実に赤字になります。

実際にはこれが一人ではなく、数十人、数百人レベルで集中することもありますので、「まっとうな派遣会社=スタッフの福利厚生にしっかり対応している」には一定の資金が必要となるわけです。

3.激安派遣会社のココが心配

前述の通り、派遣会社はお客様に派遣するスタッフを自ら雇用するため、当然それなりの経費がかかるほか、不測の事態に備え多少の貯えも必要となってきます。

派遣料金が高い理由の二番目はまさにここ、雇用主として責任を果たすためにどうしても経費がかかるというのがその理由です。

お客様から持ち掛けられる価格交渉に応じずらい点もこのあたりに理由があります。派遣会社が派遣料金を下げるために取る方法は、

①派遣スタッフの賃金を下げる
→単純にスタッフの時給を下げる

②派遣会社の利益を下げる
→必要経費を引いて残る自社の真の利益を減らす

現実的にはこの2つしかありません。

しかし、①を減らせば人が集まり辛くなるほか、高騰する最低賃金に引っかかる。②を減らせば手持ちの資金が減り、不測の事態に備えられなくなる等、そう簡単にはいきません。

世の中にはにわかに信じがたい料金でサービスを提供している派遣会社も存在しますが、相当にそのビジネスモデルに工夫が施されているか(多くはありません)、あってはならないことですが、最低賃金を割った時給を支払い、福利厚生に一切対応しないというケースも。

時給を下げ、また社会保険の事業所負担分の支払いを回避することで、安い料金でのサービス提供を成立させてしまう・・・

残念ながら、価格競争の果てに後者に身を落とす派遣会社も多数見受けられます。

4.内訳を理解し、まともな派遣会社を選ぶ

以上が派遣料金が高い理由のもう一つの理由である、派遣会社の取り分の内訳についての解説です。もはや派遣会社の取り分といういいかたが適切かどうかはわからなくなってきました。

派遣はとにかく料金が高く、「いったい派遣会社はいくらとっているんだよ」という疑問の解決の一助にはなりましたでしょうか?

派遣を使用することでお客様側は「雇用責任」を回避することはできても、そこにかかる費用までは全て回避することはできません。

派遣は自社でスタッフを雇用する場合と比較すればどうしても高くつきます。したがって、さしたる理由もなしに、単純に「人件費」という視点での損得だけを見るのであれば人材派遣を利用はおすすめできません。

しかし、派遣にはその高いコストを押してでも確実なメリットがあります。

・必要なタイミングで人がいないという機会損失の補填

・とにかく人手が足りずに会社が回らないという経営危機の回避

単純に「人が足りない」、「採れない」という目線ではなく、上記の様に広い視座で見たときに初めて、人材派遣のメリットを享受できるのではないかと考えます。

派遣を正しく利用し、そのメリットをしっかり享受するために。

まずは、今回のコラムの①と②に記した料金の仕組みをご理解頂ければ幸甚です。

また、過度な価格交渉を行えば、前項で述べた通り、不当な派遣会社の経営に肩入れすることになってしまいます。

派遣の依頼時には、本コラムの料金構造を前提に、派遣会社に対し、

・スタッフに支払う時給/給与の提示
・福利厚生の有無と対応状況の確認

少なくとも上記2点の開示をしっかり求めて頂ければと存じます。少なくともこれに即答できない派遣会社の利用は差し控えて良いかと思われます。

※派遣会社の義務はマージン率の公開までですが、料金の内訳を派遣会社に聞くことはなんら不自然な事ではありません。

ABOUTこの記事をかいた人

1974年7月3日生まれ、中央大学文学部英米文学科卒。千葉県内でパート専門の人材派遣を展開するワークパワー株式会社の営業兼、代表取締役。一児(娘)の父。趣味は旧車バイク乗り・いじり、ドラム、食べ歩き。