「自社の業績悪化」、「派遣スタッフの働きが芳しくない」等々、事情はともかくとして、「派遣の契約を終了したい」という場合に気を付けなければならないことは何でしょうか?
「次回の更新をしない」=契約満了で終了。
という手段が取れれば良いのですが、多くの場合はそうでもないようで・・・
今回のコラムのテーマは、「派遣契約の途中解除について」。契約の途中解除は労働者保護の観点から、原則不可能ですが、
・なぜできないのか?
・法律の定義はどうなっているのか?
・解除したらどうなるのか?
・ではどうすればよいのか?
上記の点について、当社なりの解釈でお話させていただきます。
1.途中解除は原則禁止
まずは大原則と結論から。派遣の契約を途中で解除することは原則出来ません。いかなる理由があっても派遣法で以下の一文がある限りは原則不可能です。
労働者派遣契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。
上記に続く「第29条の2」には、「労働者派遣契約の解除に当たって講ずべき措置」との記載があるため、一般的に解釈すれば、「措置させとれば途中解除をして良いのでは?」となって当然。
これが話をややこしくさせるのですが、とにかく、途中解除は原則禁止です。
よって「第29条の2」については、「ルールを破った際の罰則・補償について」とするのが正解です。
2.講ずべき措置とは何か?
では、この「第29条の2」に定義されている「派遣契約の途中解除にあたり講ずべき措置」とはどんな内容なのでしょうか?ものすごく簡単に説明すると、以下2点に「措置」は集約されます。
①新しい仕事を紹介する
②休業の費用、または解雇予告手当の費用を負担する
まずは①。「仕事を紹介するのは派遣会社の仕事でしょ?」と思ってしまいますが、「派遣先の都合で契約を切るのであれば、派遣先が別の働き口を探すのが筋」というわけです。
例えば、自社の別の部署や取引先など、別の働き口を、現在と同等とまたはそれ以上の条件で紹介しなさいというのが①の内容です。
次に②。契約を途中解除すると、派遣社員には次の仕事が紹介されるまでの待機期間が発生します。これを派遣会社が「休業手当」で保証する際の費用を「派遣先が負担せよ」ということです。
また、途中解除を理由に派遣会社がそのスタッフを「切る=解雇」する場合にも、その際にかかる費用(多くの場合は解雇予告手当=1ヶ月分の給与)をやはり、「派遣先が負担せよ」というわけです。
「派遣スタッフを雇用しているのは派遣会社だから」と考えてはいけません。直接の原因は派遣先都合の「途中解除」なのですから、派遣スタッフが被るダメージの責任と保障は当然ながら義務となります。
3.例外もあるが、非現実的
さて、派遣契約の途中解除は「原則不可能」ではありますが、法律上では「一部例外」が認められています。つまり、「この場合には契約を解除しても良い」という例外が存在するわけです。
しかし、私が敢えて「原則禁止」と繰り返し申し上げているのは、その例外のどれもが現実的には当てはまるようなケースがないようは、もっと言えば、契約の途中解除を考える企業の9割9分は該当しないような非現実的な内容ばかりだからです。
まあ、だからこその「例外」なのですが・・・
以下が、その例外です。
・派遣元(派遣会社)が倒産・廃業した。
・派遣労働者が死亡した。
・派遣労働者が逮捕された。
4.これでも解除できない?
途中解除の発端は「派遣先都合」の様な論調でお話をしてきましたが、原因や理由は派遣スタッフに起因する事も多々あります。例えば、以下の様なケース。
・全く仕事ができない
・勤務態度が著しく悪い、
・遅刻、欠勤を繰り返す。
・指示、指揮を聞かない
このようなスタッフの派遣を受けた派遣先はある意味で被害者と言っても良いでしょう。
ならば、上記を理由に派遣の途中解除が出来ると思いたいところですが・・・答えはNO。
極論を申し上げれば、
「どんなに仕事が出来ない方」でも、
「どんなに勤務態度が悪い方」でも、
契約を結び受入れたが最後です。期間が満了するまで中途解除はできません。
そんな人材を派遣してきた派遣会社の責任を問う場合、中途解除に関する費用の損害賠償を巡っての裁判となります。この手の裁判の判例は多数ありますが、私が見る限り「派遣先と派遣会社との痛み分け」で終わることが多く、結局は無傷で済んでいるケースは少ないようです。
また道義的に責任の所在が明らかに派遣先にない場合でも、問題がこじれれば「解決まで時間がかかった挙句の痛み分け」となることも多いのが事実。結局は、派遣スタッフの勤怠等を理由に契約を解除することは不可能近いという結論にたどり着きます。
繰り返します。
契約を結び、スタッフを受入れたが最後です。期間が満了するまで中途解除はできません。
こう考えるのがベターです。
5.ではどうすればよいか?
ここまでのお話で「派遣の途中解除の禁止」がいかに強固なルールであるかという事はご理解頂けたと思います。
ここからは「では、どうすればよいのか?」対策についてお話させていただきます。
(1)派遣契約を見直せる場合
現行の法律では、派遣契約の最短期間は「1ヶ月」です。長期の派遣を希望する場合でも、
「万が一」を考え、派遣契約をひと月単位にします。
これなら何か問題が起きても「ひと月で契約は満了」となりますので、円満に派遣の契約を終了することが可能となります。
「契約書がかさむ」、「派遣会社に嫌な顔をされる」等、少々面倒な事もありますが有事に比べれば大した手間ではありません。派遣会社に事情と考えを伝え、短期契約を繰り返していく方法に切替ましょう。
尚、派遣契約が長い方が、派遣スタッフは安心しますので、長期での派遣を予定している場合には、「長期でいてほしいと考えているが、融通の効かない契約なので」と理解を協力を求めると良いでしょう。
(2)完全に自社都合の場合
「途中解除はできない」と諦めましょう。理由の如何を問いません。社長に怒鳴られようが、上司になんと言われようが、法律は法律です。わがままは言わない様に。
(3)困った派遣スタッフにお悩みの場合
まずは「契約の満了日」を確認し、ゴールを決めましょう。その派遣スタッフのせいでダメージを受けている社員の有無をチェックします。そのような社員がいる場合には、
②しかし切れないルールがあること
③契約終了日迄のリミット
会社の意志をしっかり伝えて、社員のダメージのケアに務めてください。
派遣スタッフが実務に害を与えているようであれば、その旨は注意・指摘し改善を促して下さい。
「無駄」と分かっていても行うことが大切。そしてその旨を派遣会社にもしっかりと報告し、
対策を練ってもらいましょう。
また、問題のスタッフの担当業務を自然な形と方法で、簡易な仕事に切り替えていくことも重要。
そのスタッフがいなくなった際の後任の準備にも繋がりますし、仕事が「つまらない」と感じれば、もしかすると、
自分から・・・・
という事も考えられますからね。
(4)直球で退職を促すのもアリ
仕事の対応や勤怠等に目が余るものがある場合等には、ストレートにその旨を相手に伝え、
退職を依頼するという方法もあります。つまり、「途中解除できないので、辞めて頂けると助かる」と相手にストレートに伝えるという分けです。
しかしド直球での対応は一見簡単そうに見えますが、相手から「威圧的であった」とされれば
いわゆる「リスハラ=リストラハラスメント」とされ、大変面倒なことになってしまいますので注意が必要です。
・あなたのせいで困っている。
・理由は〇〇と〇〇(かなり細かく)
・契約更新の意志は全くない
・最後に自主退職のお願いをする。。
もし、その場で答えが出ない、難色を示すようであれば深追いは禁物です。
以上、今回のコラムでは「派遣契約の途中解除」についてお話をさせて頂きました。
後半にはやや強引な「対策」についても記述しましたが、とにかく派遣の途中解除は出来ません。
会社の都合がどうあれ、派遣会社が便宜を図るといっても、そして派遣スタッフがどんな方であったとしても、
ダメなものはダメなんです。
あれこれと述べてまいりましたが、結論はやはりここ。最後にもう一度申し上げます。
「派遣契約の途中解除はできません」。